エソポのハブラス

2011年 岩絵具
安土桃山時代には日本に入ってきて、
日本人にとって古くから馴染みのある「イソップ物語」。
和のテイストで描いてみました。

『母蟹と子蟹』


母蟹が、我が子の歩く姿を見つけて、言った。
「まあ、みっともない。なぜお前は、横へと這って行くの。
真っ直ぐ、前へ向かって歩きなさい。」
子蟹は一生懸命、前へ歩こうとしたが、横にしか進めなかった。
母蟹は、じれったくなって言った。
「まったくもう、私がお手本を見せますからね。」
子蟹は、母が歩く姿を見て言った。
「でも母上、僕とおなじ歩き方だよ。」
子どもをいとしく思う母親は、自分でもできないようなことを、子どもに望んでしまうものだ。


『都の鼠と田舎の鼠』


田舎ねずみが、友だちの都ねずみを、自分の住まいに招待して、野にある食べ物でもてなした。都ねずみはそれを食べて、言った。「君は、いつもこんな虫の食べるようなものばかり食べているのか。
我が家に来たら、もっとずっと豪勢なものが食べられるぞ。」
そこで早速、二匹は都ねずみの家に向かった。
都ねずみの家は、裕福な人間の住居の中にあった。都ねずみは、田舎ねずみを人間の台所へ連れて行くと、そこには美味しそうなご馳走が並んでいた。
田舎ねずみは、驚き、うらやましく思って、自分の味気のない暮らしを嘆いた。
そして、さあ食べようとなったそのとき、突然人間がやって来た。
田舎ねずみは、腰をぬかしながら、必死に壁の割れ目に逃げこんだ。
都ねずみは、慣れた様子で、人間の目の届かないところへ隠れた。
人間が立ち去ると、田舎ねずみは出てきてこう言った。
「さようなら。君は、危険を隣り合わせにしながら、贅沢を味わっているけれど、私の性には合わない。私は、貧しくても堅実に生きていくよ。」
そうして、田舎の家へ帰って行った。


『木こりとヘルメス』


木こりが、川辺で木を切っているとき、あやまって斧を、水の中に落としてしまった。木こりが嘆いていると、ヘルメスがあらわれて、どうしたのかとたずねた。大事な斧を失った話を聞いたヘルメスは、水の中に入っていって、金の斧を持って浮かんできた。
「お前が探しているのは、この金の斧か。」おどろいた木こりは言った。
「めっそうもない。私の斧はそんな上等ではありません。」
ヘルメスはまた川に入っていって、今度は銀の斧を持ってあらわれた。
「それでは、この銀の斧か。」
「とんでもない。私の斧は使い古した鉄の斧です。」
ヘルメスは、また川に入っていくと、今度はたしかに木こりの斧を持って、あらわれた。
「そうです。その斧です。」
ヘルメスは、木こりが正直者であることをほめて、三つの斧すべてを、木こりに与えた。木こりは喜んで、仲間たちのところにもどり、そのことを話した。
すると、その中の一人が、自分も金や銀の斧を手に入れようと考えて、その川辺に出かけて行った。岸から、自分の斧を水の中に投げ込み、おいおいと泣いていると、ヘルメスがあらわれた。「お前が探しているのは、この金の斧か。」
その木こりは大喜びで言った。「そうです。その金の斧です。」
ヘルメスはその不正直さに腹を立てて、木こり自身の斧も与えないまま、消えてしまった。


『針と娘』


娘が縫い物をしていると、指に針がちくり刺さった。
娘は腹を立てて言った。
「まあ、なんてひどい針。
私の指が血だらけになってしまったではないの。」
針は冷静に答えた。
「私の動きは、あなた次第、自分では何もできません。
あなたの可愛い指を刺したのは、他でもない、あなたです。」


『鸚鵡と猫』


ある家に、鸚鵡が買われてきて、部屋の中で放し飼いにされた。
鸚鵡はかまどの上にとまって、おもしろい歌を歌って聞かせていた。
その家の飼い猫が、それを聞いて、厚かましく思ってこう言った。
「新米のくせに、何を大声で鳴いているんだ。
私はこの家で生まれたが、私が鳴こうものなら、家の者に怒られて、追い出されてしまう。」
すると、鸚鵡は言った。
「家つきの娘さん、あなたと私を一緒にしないでください。
私の声とあなたの声とじゃ、全然違うのですよ。
さあ、あっちへ行って下さい。」


『北風と太陽』


北風と太陽が、どちらが強いかといって、争っていた。
道を歩いて行く旅人を見つけて、旅人の着物を脱がせた方が、勝ちだという勝負をすることにした。
まずは、北風がはげしく吹き荒れて、着物を吹き飛ばそうとした。
ところが、旅人は寒がって着物をおさえて、そのうち、他の着物まで着こんでしまったので、北風はとうとう疲れきってしまった。
そこで次に、太陽が旅人をじわじわと照らした。
すると旅人は、暑くなって一枚一枚と服を脱ぎはじめた。
ついには、裸になって川に飛びこみ、水浴びをしたので、太陽が勝負に勝った。
無理に何かをやらせるよりは、暖かく言い聞かせる方が、効き目があるということだ。


『カメレオンと白い手ぬぐい』


一人の人が言った。「カメレオンは青色だ。」
もう一人はこう言い張った。「いいや、カメレオンは緑色だ。」
三人目は「いやいや、カメレオンは真っ黒だ。」と言った。
誰が正しいのかはっきりさせようと、三人はカメレオンを白い手ぬぐいの上に乗せた。すると、カメレオンは真っ白になった。
カメレオンは言った。「あなたがたは、皆正しいことを言っているが、同時に間違っている。」


『龍と人』


山の中を馬に乗って行く人が、水から離れて、ひからびそうなっている龍に出会った。龍は、その人を見ると言った。
「私を川まで送って下されば、金でもなんでも、望むものを差し上げよう。」
それならばと、人は龍を馬に乗せ、落ちないようにくくりつけて、川のほとりまで連れて行った。そして、「約束通り、金をもらいたい。」と人は言った。
すると龍は怒って「こんなにきつく縛りつけられて、ひどい目にあったのに、金などやるものか。」
と言い出した。
通りかかった狐が、「どちらの言い分が正しいのか、私が判断してあげよう。」と言ったので、「このように縛りつけられた。」と龍は再現して見せた。
狐は人に、「どれほど強く締めたのか。」と聞いたので、人は「これぐらいだ。」と縄を引っ張った。
龍は「いやいや、もっときつく締め上げられた。」と言ったので、狐は「これぐらいか。」と締め上げて、「こんな奴は、元のところへ置いてきなさい。」と人に言った。そこで、龍は元の水のないところへ連れもどされてしまった。
こうして龍は、人と狐によって滅びてしまったそうだ。


『肉をくわえた犬』


肉をくわえた犬が、川を渡っているときと、川の水に、自分と同じように肉をくわえている犬がいるのを、見つけた。
自分の肉より大きく見えたので、うらやましく思った犬は、その犬の肉をとってやろうと考えて、大きく口を開けた。
そのとたん、自分の肉が口から落ちて、水の中に消えてしまった。
川の水にいた犬は、水面に映った自分の姿だった。
犬は、欲をはったために、二つどころか、一つの肉も食べることができなかった。